私は約20年にわたって、高齢の親と離れて暮らす子供によるケアや介護、いわゆる遠距離介護について研究をしてきました。私の推計では、日本では現在、約1万5千人から3万人の子供たちが遠距離介護にたずさわっていると考えられます。こうした遠距離介護の現場に対する貢献を行うために、私は、1960年代後半にアメリカ西海岸で始まった会話分析というアプローチを用いて、遠距離介護のコミュニケーションの分析を行い、そこで実際に用いられている、<人々の方法>の研究(ethnomethodology:エスノメソドロジー)を行っております。現在の研究テーマは、その対象としているデータの特徴から、主に3つあります。第1に、離れて暮らす子供、ケアマネジャー、地域包括支援センターの職員などが参加して行われる、高齢の親のためのケアカンファレンスのビデオ撮影データの分析です。離れて暮らす子供と、福祉の専門職者の間で、高齢の親のための支援の方針についての考えは必ずしも最初から一致しているわけではありません。また互いに、高齢の親についての知識についても差異があります。こうした相違や差異がコミュニケーションの中でどのように調整されていくのかを、会話分析を通じて明らかにしようとしています。第2に、ケアマネジャーが高齢の親の家を訪問し、そのタイミングで離れ暮らす子供が帰省した場面のビデオ撮影データの分析です。ケアマネジャーは月に1回の訪問場面で、高齢の親についてのアセスメントを行い、翌月のケアプランを立てるのですが、少なくない形で、離れて暮らす子供が、高齢の親の代弁を行うことがあります。他方で、高齢の親に対して、直接意向が尋ねられる場合もあります。実際の遠距離介護のコミュニケーションの中で行われているこうした代弁や意向の伺いは、「なぜ、そのような形で、そのときに(whythatnow)」行われるのでしょうか。また近年、高齢者介護の文脈で、高齢者本人の思いの尊重がその理念として語られることが多いのですが、こうした代弁や意向の伺いは、その理念とどのような関係にあるのでしょうか。会話分析を通じて、その現実の解明を目指しています。第3に、遠距離介護の遠隔コミュニケーションの分析です。離れて暮らす子供たちは帰省を通じて福祉の専門職者と対面コミュニケーションを交わしますが、その一方で、電話を利用した遠隔コミュニケーションも重要な役割を果たしております。たとえば離れて暮らす子供は、しばしば、電話でケアマネジャーに依頼を行ないますが、そこではケアマネジャーの行為の拘束性が非常に弱められた形で行なわれます。それは、ケアマネジャーに決定の権限を尊重するという配慮の方法なのです。会話分析は、研究者の理論を現実に適用するのではなく、徹底して人々自身が用いている方法の解明を目指します。それゆえ、その知見は遠距離介護の中で直面しうる場面において、当事者、専門家、そして高齢者たちが実際に採用可能な方法を明らかにするという、貢献が可能なのです。いままで行なってきた遠距離介護の研究をまとめる作業をしたいと考えています。研究協力をいただいた事業所等などを対象に研究成果報告を行っています。(特徴と強み等)(社会活動特許等取得状況産学連携・技術移転の対応等)福祉会話分析・遠距離介護におけるケアカンファレンスの会話分析・遠距離介護におけるケアマネジャー訪問場面の会話分析・遠距離介護における遠隔コミュニケーションの会話分析遠距離介護におけるコミュニケーション日本社会学会、エスノメソドロジー・会話分析研究会なかがわあつし2022年1月更新教育・研究活動の紹介今後の展望社会貢献等分野研究テーマキーワード所属学会等特記事項URL: -Mail: a.nakagawa[at]cc.utsunomiya-u.ac.jp研究概要SDGs事例コミュニティデザイン学科地域デザイン科学部准教授中川敦
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