■「ライオン」で歯の世界へ■博士課程で学んだ仕事のスキル博士課程在学中に初めて国際会議の口頭発表をしました。とても緊張して満足のいく発表ではありませんでしたが、発表内容を英文で考えることや、発表のための練習などがとても勉強になりました。プレゼンの結果以上に、発表に向けてのプロセスの重要性も認識でき、私にとっては今につながる大変良い経験ができました。聴衆の外国人参加者から「とても面白い研究だ」などとコメントをいただいたことは、今でも励みになっています。「たくさんの人を笑顔にしたい」そんな気持ちが強かったので博士課程修了後は、人々の生活に密着した日用品を提供するライオンに入社しました。入社当初は、学生時代に培ったバックグラウンド(界面科学の専門知識)をフル活用して、「なぜ当社の洗剤は競合他社の製品に比べて優れているのか」を検討していました。衣料用洗剤、台所用洗剤、実に多くの製品に携わりました。その中で、材料の評価・分析技術を買われて、歯の世界に入っていくことになります。歯の不具合として一般的に知られているのは、「虫歯」だと思いますが、実はそれ以外にもたくさんの不具合が存在しています。ただ、その原因が明らかになっているのはごく一部です。私自身の持つ評価技術の対象を、これまでの洗剤から歯へシフトさせて、歯の不具合の原因を見つけて、それをケア技術につなげていくための検討を行っています。研究開発本部では、当社における主要な技術領域に対して、部署横断的にリーダーを置いていて、私は硬組織分野のリーダーを任されています。ここでは、技術継承と競争力を高めることを目的としていて、今、会社にどんな技術が必要か、どうやってそれを獲得し継承するか、などの戦略を考えています。また、研究を続けていく中で、ドイツのマックスプランク研究所に留学する機会を与えられました。私の学生時代の恩師である飯村兼一教授がかつて留学していた部門と同じところでした。飯村先生に一歩近づけた気がして、とてもうれしかったです。また、そこで得られた知見に関して、日本の歯科界で著名な先生方に「これは教科書に載せるべきだ」と言っていただけた時は、これまで頑張ってきて本当に良かったなと思いました。今の私の夢は、「世界中の人々の歯を健康に美しく保つこと」、いつまでも自分の歯でおいしいご飯が食べられる、自信を持って笑えるような世界にしていきたいと思っています。そのためには、生活者の口としっかり向き合い、本当に必要なものを然るべきタイミングで提供できるよう、さらに努力していきたいと考えています。私たちを取り巻く環境は、今めまぐるしい速度で予想しきれない方向に変わっていっているように思います。その中で私たちは、世の中に「新しいもの・求められるもの」を提供し続けていかなければなりません。そのような環境に身を置いている今、必要だと思うことは、0(ゼロ)から1(イチ)を作り出すスキル、1を100にまで持っていって着地させる(きちんと形にする)スキル、どちらが欠けていてもいけないのです。大学で学んだ分野と会社で専門としている分野は全く同じではありませんが、私はそのスキルを博士課程で学んだと思います。だからこそ、今の仕事を続けられているのだと思っています。後輩の学生さんたちには「誰かに言われた通りではなく、自分で考え、実行し、必要に応じてピボット(方向転換)できる」こんな能力を養っていただきたいと思います。9●UUnow第54号 2022.4.20ライオン株式会社の平井研究所(東京都)で
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