宇都宮大学広報誌 UUnow 第55号
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私は︑紛争を研究テーマとしています︒法を用いたり︑政治学の理論に依拠したりして︑多角的な視座から特にアフリカの武力紛争や人権侵害を考察し︑平和な社会を築くための知を理論と実践の両面から探究しています︒       ■今なお武力紛争は発生しているが︑そこにルールはある子どもの頃︑祖父母から戦時中の話をよく聞く機会がありました︒特に︑母方の祖父は関東軍に従軍し︑戦後はシベリアでの抑留を体験しておりましたので︑寝る前に話してくれた思い出の数々は大変貴重な︑でも︑当時の私にとっては︑なんだか冒険譚のようで︑ワクワクして聞いていました︒でも︑成長するにつれて不思議な気持ちになりました︒私たちは︑日常生活で誰かが傷つけられたりすると︑それが犯罪であり︑処罰されるべき行為であると感じます︒ですが︑戦争では︑人が人を殺めても処罰されることはありません︒むしろ沢山の兵士を殺害すれば勲章を授与されたりします︒そこには全く異なる世界観が存在していますが︑戦争だから何をしても許されるのでし■うか?このような疑問が国際人道法と呼ばれている戦時中のルールを定めた国際法に興味を持ったきっかけです︒国連憲章は武力行使を禁じています︒しかし︑現実には近年︑ウクライナをはじめ大規模な武力紛争が発生しており︑ウプサラ大学の紛争データプログラムによると︑2021年は世界で170の武力紛争が発生し︑約12万人が犠牲者となりました︒国際法では禁じられているものの︑現実に発生している武力紛争の悲惨さを少しでも抑制するために︑国際人道法は紛争当事者が守らなければならないルールを規定しているのです︒例えば︑化学兵器やクラスター爆弾の使用は国際人道法によって禁止されており︑これらが使用されたことが分かると︑戦争犯罪として批判されます︒国際人道法の発展は︑戦時中に行われてきた凄惨かつ残虐な行為を可能な限り規制しようとしてきた人類の歩みなのです︒■国際刑事裁判所は万能ではないが︑重要な一歩では︑国際人道法に違反した者は誰に裁かれるのでし■うか?第二次世界大戦後にニュルンベルクや東京で国際軍事法廷が開かれ︑戦争犯罪への追及が行われましたが︑﹁勝者の裁き﹂であるとの批判もありました︒国際社会が個人を裁くためには︑公平かつ独立した常設の裁判所が必要であり︑この構想は︑2002年から条約に基づき活動を開始した国際刑事裁判所︵ICC︶によって実現しました︒日本を含め123カ国が加盟しており︑日本人の判事や職員の方も活躍されています︒しかし︑ICCは国際人道法に違反したすべての者を捜査・訴追するわけではありません︒あくまでも第一義的な責任は当事国にあり︑同国司法機関が訴追する意思や能力がないのであれば︑代わりにICCが裁くという補完性の原則を掲げています︒ICCは最後の手段として︑国内司法が法に違反した者を裁くように促しています︒ですが︑最後の手段と言いながらも︑強制的な執行力を持たないICCは︑国家からの協力がなければ被疑者を逮捕できませ■国際人道法・国際刑事法と平和構築■国際学部准教授 藤井広重声なき声と向き合う学際的なアプローチ国際学部 准教授藤井 広重UUnow第55号 2022.10.20●12■■■■■■■獨協大学大学院修士課程/ライデン大学グロティウスセンター高等修士課程修了(法学)。東京大学大学院博士後期課程修了(国際貢献)。国連でのインターン、国連大学、開発や難民支援団体での勤務、内閣府国際平和協力研究員、ケープタウン大学客員研究員を経て2017年より現職。第17回/第18回宇都宮大学ベストレクチャー賞。第9回若手難民研究者奨励賞。藤井広重「国連と国際的な刑事裁判所: アフリカ連合による関与の意義、課題及び展望」121-148頁、日本国際連合学会編『国連: 戦後70年の歩み、課題、展望』2016年

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