宇都宮大学広報誌 UUnow 第55号
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私私ん︒例えば︑スーダンの大統領にはICCから逮捕状が発布されましたが︑同国は逮捕や捜査に協力することなくICCからの要請を無視し続けました︒■﹁処罰することが平和につながるわけではない﹂こともあるケニアの事例では︑2007年選挙後暴力に関わったとして︑2人の国会議員がICCからの捜査対象となりました︒ですが︑なんとその後の選挙で両者は大統領と副大統領に当選します︒捜査は遅々として進まず︑現時点で訴追は断念されていますが︑なぜ︑ICCから訴追されながらも両者は国内で支持を集めたのでし■うか?同事例については東京大学に提出した博士論文でも検証しましたが︑ここでお伝えしたいことは︑悪いことをした者を裁くことが常に人々から受け入れられるわけではなく︑国内と国際的な刑事裁判とは違うということです︒国際的な刑事裁判では︑罰を与えるということだけではなく︑その後の同国の平和にどのような影響を与えるのか︑より考慮しなければなりません︒だからこそ︑ICCの裁きに被害者を含めローカルの人々がどのような感情を抱き︑紛争後の平和構築にいかに向き合い取り組もうとしているのか︑﹁声なき声﹂にも耳を傾ける必要があります︒ウガンダなど︑元反乱軍の兵士に対し︑恩赦法を定め︑罪に問わず社会復帰を促しているような国もあり︑平和の担い手はあくまでも国民たちなのです︒ここで全てを語ることはできませんが︑このような視座は私が実務の現場を経験したときに本当に重要であると感じました︒今は研究者として︑国際的な枠組みを考察しながらも︑一方的な介入につながる議論ではないか立ち返り︑そこに住む人々の声も聞き︑紛争後の平和と司法の関係を考え続けていきたいと思っています︒13●UUnow第55号 2022.10.20学生時代に何を頑張ったかと聞かれれば、野球です。小学校から大学まで野球部に所属し、投手としてチームメイトの思いを背負い、マウンドを任された時の胸の高まりは、今でも忘れられません。初めての海外も中学3年生の春に野球をプレーするために単身でマイアミに渡米した時です。プロを目指し野球三昧の学生時代でしたが、新しい目標として司法試験の勉強を始めたときに学問の面白さに気づきました。野球では「この前はよかったのに、今日は全然ダメ」という時もあり、努力が必ずしも実を結ばず、勝敗が突きつけられます。それでも失敗を糧に努力を続けるしかありませんが、学問は失敗を含めて全てが新しい知識の積み重ねとなっている実感がありました。そこで、興味を持った国際人権法の領域を突き詰めたいと思い、研究者を志しました。大学院では「あの頃には戻りたくない」と思うほどに勉強しましたが、学べば学ぶほど、いかに理論が実践に生かせるのか、現場を見たいという思いが強くなりました。そこで、修士号取得後に国連やNGOで働き、実務経験を重ねました。この時、実践的な経験も大事だが、課題の実態を正確に摑むためには、やはり理論への理解が不可欠であり、再び学問と向き合いたいという思いが強くなりました。そして、国際法の首都オランダ・ハーグのライデン大学グロティウスセンターにて国際刑事法を専門に学び、高等修士号を取得しました。ライデン大学ではこれまで修めてきた法学とは異なるアプローチに挑戦し、指導教員も背中を押してくれました。特に、国際法、国際紛争において正義はひとつの尺度で捉えることができません。紛争被害者の会や裁判の傍聴に出かけては、国際刑事法が武力紛争後の平和構築にどのように寄与できるか、という問いに答えを見つけたいという思いを強めました。ライデン大学在学時にクラスが国際刑事法の模擬裁判大会で世界一になりましたが、私は補欠でした。でも、この時の経験が今の模擬裁判の指導につながっており、2021年はゼミ生がトルコの大会で第2位。どんなことも今日の成長につなげることができているのは、野球で失敗し続けても諦めなかった経験があったから。マウンドに負けないドキドキ感を学生たちは提供してくれるので、これからも力になれるよう私自身も失敗を恐れず、明日に希望を持って学び続けたいと思います。オランダ・ハーグの国際刑事裁判所にて赤根智子判事(写真:後右から3番目)と藤井ゼミの学生たち(2019年9月ゼミ合宿)プロ野球選手を目指していた学生時代ウガンダ北部に位置するグル大学法学部での調査、当時2歳の息子とLearn from yesterday, live for today, hope for tomorrow.藤井 広重

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