宇都宮大学広報誌 UUnow 第57号
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kansei informa-memory) (ilicit長い間、人間にとって文字とは刻印(もしくは印刷)された状態で目にするものでした。しかし近年、スマートフォン等のモバイル型端末の利用が日常化することにより、文字情報を紙とペンではなく情報機器上で利用する機会が急増しました。■文字の形と言語の意味の関係長い間文字の形、つまりタイポグラフィを後から簡単に変えることはできませんでしたが、情報機器の発達により、文字情報の「入力」と「出力(表示)」の分離が日常的にできるようになりました。機器上の表示文字を後からでも自由に変更することが可能となり、単語ごとに「適切な」タイポグラフィをユーザーが選択することもできます。さて、タイポグラフィには星の数ほども種類があり、新しいものも日々生み出されています。かわいらしい文字、怖そうなホラー書体、筆で書いたようなtion風流な文字……。人はタイポグラフィを目にした際、その形に対して様々な印象を抱きますが、これは専門用語で感性情報)と呼ばれます。このような、「文字のタイポグラフィ」が持つ感性情報と、文字が表している「言語の意味」とが一致しているかどうかが、人が文字を読む際の認知処理にどのような影響があるのだろうというのが、私の研究のおおもとの興味です。タイポグラフィをひとつの人工物として捉えれば、「文字で相手に情報を伝えること」とは、語義の伝達であるだけではなく、感性情報を運搬する物理的性質を持つ人工物の産出でもあるのです。 グラフィが用いられた条件と比較しこの観点から、人が言語産出・言語理解において行っている認知過程を明らかにしようとするアプローチ法は、新しいものだったと思います。しかし悩ましかったのは、その「影響」があるかないかをどのように測定するか、ということでした。感性情報とは言語化しにくく、無意識的に処理されるということが指摘されていたため、非常に測定しにくかったのです。mp■認知心理学実験における比較そこでまず、潜在記憶パラダイムと呼ばれる実験方法を用いて検討を行いました。潜在記憶とは、意識的に思い出そうとしなくても利用可能な記憶を指し、「実施された処理自体の記憶」を反映していると言われています。詳しい実験方法は長くなってしまうのでここでは割愛しますが、一連の実験の結果、言葉の情報とよく一致したタイポグラフィを用いて単語を提示する条件では、不一致のタイポて、文字の形態的処理がより促進されることが示されたのです。その後、タイポグラフィだけではなく手書き文字を用いた実験や、音声の声質や声音を操作した同様の実験を行ったり、人の声の代わりに合成音声を用いてみたりもしました。こうした研究は、人のコミュニケーション過程に踏み込む新たな研究になるとともに、学校現場における教材などのよりよい情報デザインにもつなげていきたいと考えています。共同教育学部助教 宮代こずゑ人の潜在的な認知と文字表現の効果(PROFILE学習院大学文学部心理学科卒業。筑波大学人間総合科学研究科心理専攻博士前期課程修了。筑波大学人間総合科学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得退学。筑波大学人間系研究員を経て、2017年から現職。博士(心理学)タイポグラフィの例。左:ポップ体、右:古印体第二章の執筆を担当した書籍。人が日常生活において、いかに多くの無意識な情報処理を行っているかがわかる共同教育学部 助教宮代 こずゑUUnow第57号 2023.10.20●12

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