宇都宮大学広報誌 UUnow 第59号
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7●UUnow第7●UUnow第59号 込むんじゃないの?」と思うかもしれませんが、ブラックホールにプラズマが吸い込まれるのは自明ではありません。地球は太陽に引っ張られていますが、太陽の周りを回るだけで太陽に向かって落ちては行きません。これは角運動量と呼ばれる〝回転の勢い〟が保存しているからです。プラズマがブラックホールに吸い込まれるためには角運動量の保存を破り、回転の勢いを徐々に失っていかなければなりません。乱流はこのために重要なのです。さらに、ブラックホールに吸い込まれるプラズマは、電磁場のゆらぎのエネルギーを吸収して高温に加熱され、X線や電波を放射します。2019年にドーナツ状のブラックホールのシャドーが撮影されて話題を呼びましたが、実は、あの輝きは乱流によって熱せられたプラズマからの光を捉えたものなのです。持つ性質には多くの謎が残されていました。例えば、乱流の中にどのような種類の波が存在しているか分かっていませんでした。プラズマの波は、電磁しかし、降着円盤のプラズマ乱流が場や圧力の変動が絡み合った複雑なものですが、ざっくり言って横波と縦波の二種類に分けられます。横波は弦の振動や、水の波面のイメージです。一方、縦波の代表例は音波です。降着円盤の中に横波と縦波のどちらが多いかによって観測データの解釈が変わってくることがあります。私たちはスーパーコンピュータ「富岳」を利用して、史上最大規模の降着円盤乱流シミュレーションを行い、降着円盤には縦波が支配的に存在することを示しました。この発見により、これまでの観測データをより高精度に解釈できる可能性が出てきました。いずれは私たちの成果が、降着円盤研究の新たなフロンティアを拓くことに繋がると思っています。スーパーコンピュータを使ったシミュレーションでは、膨大なデータが作られます。そのデータの中から面白い物理的性質を発見するためにデータサイエンスが活躍します。私も、様々なデータサイエンス手法を用いてシミュレーションデータから「宝探し」をしています。富岳で行った降着円盤のシミュレーションと、降着円盤のイメージ図を重ねた図川面准教授が最近導出した降着円盤のプラズマを記述できる新しい方程式日本学術振興会主催の国際会議「HOPEミーティング」のメンバーと(前列中央が本人)小学2年生のとき、テレビでブラックホールやビッグバンなど宇宙の神秘を探るドキュメンタリー番組を見て、宇宙に強い興味を持ちました。進学した東京大学には、2年生の途中で進む学部学科を決める「進学選択」という制度があり、宇宙物理学に関心を持つ学生の多くが理学部に進む中、私は工学部システム創成学科に進み、主にプログラミングを学びました。現在はブラックホール降着円盤の研究をしていますが、宇宙物理学に関する研究者としては珍しい経歴かもしれません。大学院に入ってからは、大学院生として研究をしながら、ベンチャー企業でエンジニアとして働きました。当時、その会社は設立されたばかりで、数名の社員しかおらず、プログラミングができる人材が求められていました。納期直前や忙しい時には研究より仕事を優先し、泊まり込んで作業することもありました。秋葉原で安価なパソコンを購入し、サーバーを構築して商品の試作版を提供しました。その頃は、スマートフォンが普及し始めた時期で、主に携帯電話(いわゆるガラケー)を用いた顧客満足度調査のシステムを開発していました。学部時代に学んだプログラミング技術を社会で実践することができ、とても貴重な経験になりました。博士課程在学中には、米国のニューヨーク大学に研究留学しました。海外の大学は非常にオープンな雰囲気で、私も国際性を高めたいと考えるようになりました。この留学は私にとって大きな転機となり、人生を大きく変える経験となりました。今の学生にも国際性を持ってもらいたいと願い、ぜひ留学に挑戦してほしいと思います。この留学をきっかけに、大学院卒業後も海外で働きたいという思いが強まりました。その後、縁あってオックスフォード大学でポスドクとして働くことができるようになりました。オックスフォード大学では、それまでの研究内容から大きく方向を転換し、ブラックホールや太陽におけるプラズマに関する研究を始めました。子供の頃の夢だった宇宙の研究に再び携わることができたのです。また、研究手法として、それまで未経験だったスーパーコンピュータを使ったシミュレーションを導入するようになり、工学部で学んだ知識やベンチャー企業で実践したプログラミングスキルが大いに役立ちました。オックスフォード大学で始めた研究は、現在も私の主な研究テーマとなっています。宇都宮大学には今年着任したばかりですが、現在は授業でAIの基礎を教えています。AIは以前と比べ手法として簡単に、親しみやすくなってきており、多くのAI関連ベンチャー企業が生まれています。私自身がベンチャー企業で働いた経験を生かし、教育を通じて地域に貢献できればと考えています。ベンチャー企業でのエンジニア経験とNY留学、大きな転機に 川面 洋平私私私私

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