これまで本学での研究の魅力をお届けしてきた「研究Keyword」がリニューアル!本学の教員が1つの「キーワード」を軸に、わかりやすさをプラスして、研究の面白さをより身近にお届けします。昨年話題となったNHK連続テレビ小説『虎に翼』。その重要な舞台の一つである「明律大学女子部」の撮影場所が、本学の峰ヶ丘講堂だったことをご存じでしょうか。この作品は、日本初の女性弁護士・三淵嘉子さんをモデルにした主人公、猪爪寅子の人生を描いたものです。「男尊女卑」の旧習を打破し、職業的女性として社会に進出していく寅子の姿に、多くの視聴者が感銘を受けたことと思います。ある性別を特定の役割に結び付けることや、「男/女だから○○すべき」とするような考え方を指す言葉として「ジェンダー」という概念があります。ジェンダーは生まれつき自然に決まるものと思われがちですが、実際は社会や文化、時代の変化に影響を受け、変容してきました。『虎に翼』の寅子は、「女だから良妻賢母になるべき」という考えに疑問を持ち、自ら変えようと挑戦しました。また、『虎に翼』の各週のタイトルは、ジェンダーに関することわざや慣用表現に「?」をつけたものが多く見られます。例えば、「女性は三界に家無し?」や「女賢しくて牛売り損なう?」、「女三人寄れば姦しい?」等があります。この「?」は、ジェンダーに対する戸惑いや不満の表れではないでしょうか。私はお茶の水女子大学の院生時代から継続して女性の経済的権利に「?」をつけながら、様々な問題についてジェンダーの視点から研究しています。特に、中国女性の土地をめぐる権利の剥奪問題――農嫁女問題に焦点を当てて研究を行っています。中国の改革開放以降(1978年~)、都市化、工業化の進展に伴い、農民たちが利用していた土地の略奪が激しさを増しました。地方政府は、農民から土地を非常に低い価格で収用し、土地収用に対する補償金は、村民たちの間で分配されることになりました。その際、村役場が「女性が結婚したら夫の村へ移住すべし」という伝統的なジェンダー秩序に基づき分配ルールを制定したため、一部の女性やその子どもが補償金の分配等から排除されました。そうした女性たちは「農嫁女」とも呼ばれます。彼女たちも「女性が結婚したら夫の村へ移住すべし」という慣習に「?」を付けながら、対抗運動を繰り返してきました。私自身も現地に赴き、資料収集やフィールド調査を行ってきました。2022年には、その研究成果をまとめた単著『現代中国の高度成長とジェンダー―農嫁女問題の分析を中心に―』を東方書店から出版しました。私にとって、ジェンダーは時代の足音7 を捉えるための重要なアプローチです。みなさんはどのようなことわざや現実生活に「?」を付けながら、挑戦していますか?機会があれば、ぜひお聞かせください。NHK 連続テレビ小説『虎に翼』の撮影に使われた峰ヶ丘講堂Keyword ジェンダー 時代の足音を捉えるアプローチ農嫁女のパフォーマンス・アート(2013年12月12日 中国浙江省で撮影)国際学部 助教 李亜姣1987年生まれ。2019年お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科ジェンダー学際研究専攻博士後期課程修了。博士 ( 社会科学 )。お茶の水女子大学基幹研究院リサーチフェロー、日本学術振興会外国人特別研究員 ( 東京大学社会科学研究所 ) を経て、2024年から現職。専攻はジェンダー論、中国地域研究、フェミニズム経済学。主な著書に『現代中国の高度成長とジェンダー―農嫁女問題の分析を中心に―』(東方書店)、『中国と日本における農村ジェンダー研究』(共著・晃洋書房)がある。研 究Keyword+
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